塾長コラム『依怙贔屓』

1985年に「英才教室」という塾を開きました。当初は成績がなかなかあがらず、翌年自分で勉強することをコンセプトに「自立学習指導会」という塾に改名しました。

 

当時私は塾を開く以上、知識を教えなければならないと思っていました。しかし、教えて理解できない、そばから忘れていく、聞いていないなど効果がなかなか上がらないのです。もっと良い勉強法は無いものか悩みました。

 

私は自分が勉強に目覚めた経緯を思い出しました。私は北海道の帯広という町で高校時代まで過ごしました。小さい時の成績は芳しいものではありませんでした。親も教育に関心を持たず、酒ばかり飲んでいるような親でした。

 

そんな中、私の中学に高橋先生という教師がいました。先生は、理科と数学を担当しており、私は高橋先生から習うことになったのです。高橋先生はどういうわけか、私のことを気に入ってくれました。なんの取り柄もない私のことを気に入って、「高瀬出てこい」と言って教壇に上げてくれました。そして、えこひいきとも言えるひいきをしてくれたのです。

 

ある日、高橋先生は理科の実験で大気圧のことを教えようとしていました。バレーボールぐらいのゴムの半球を2つ用意します。その半球には上下に把手がついています。その半球を繋いで一つの球にし、中の空気を抜いていきます。大気圧でその半球同士は固く密着するのです。高橋先生が上を持って、私は下にぶら下がりました。ところが、私の体重の重みをみごとに受け止め、その半球は割れません。しかし、空気を入れると、自然と2つの半球に分かれてしまう、そんな実験でした。

 

私はこれらの体験を通して、高橋先生が大好きになりました。

そして、教科書を読むようになりました。高橋先生の教えている理科と数学です。

教科書とは難しいものです。はじめは分からないところだらけでした。

そして、分からないところだらけの文章を読むのは、相当難しかったと記憶しています。

しかし、分からなくても読み続けました。そうしたら、次第に分かる部分が出てきました。

どうしても理解できないところは、疑問を持って、次の先生の講義を受けました。

そうすると、実に簡単に疑問が解決するのです。私の成績はミルミルと上がっていきました。その結果、帯広で当時一番の進学校である三条高校に入ることができたのです。

 

今思えば、「教科書を読む」という些細なことが、工学博士やマイジャイロというユニークな塾作りへと導いたのかもしれません。その意味でも、高橋先生には感謝しかありません。あの1年間の出会いが、こんなにも大きな結果をもたらすものだということは、当時の自分には分かりようがありません。

 

時が経って1985年に、いろんなことを経験したあと塾をやることにしました。塾を始めた当初は、普通に知識を教えていました。しかし成績は伸びません。塾を開設して1年した頃、ふと高橋先生のことを思い出しました。

そうだ、自分で勉強させればいいのだ」。自立型の勉強法を思いついたのです。

当時、勉強は教わるもの、自分で勉強するのでは教えることにならず、お金が取れない、と考えられていました。でも私は、自分で勉強するほうが実質的に成績は上がると考えていました。それで「自立学習指導会」という名称にして自立学習を始めたのです。

 

最初の自立学習は、ひたすら教科書を写すものでした。それから改良に改良を重ね、教科書の読み方、指導の仕方が分かってきました。今ではどの部分を丁寧に読ませるか、どの部分をまとめさせるか、どの部分を繰り返すか・・・など詳細にノウハウが積み上がってきました。

その結果、驚異的に成績の上がる人が続出するようになりました。

 

このような人たちを目の当たりにすると、こんなに効果的に成績を上げられる方法を残さないということに罪悪感を感じ、残すのが最後の仕事だと思うようになりました。

 

 

高瀬先生は東京工業大学で超微粒子の作成とその生成理論で工学博士の学位受けました。その研究は当時としては画期的で日経新聞にも載った程です。その研究を事業化しようと頑張りましたがなかなか軌道に乗らず、反対に生活の為に進めていた小さな塾の仕事が大成功して塾を続ける事になってしまいました。

 

1985年の当時「自立学習」という発想そのものがなく、自分で勉強するのでは商売として成り立たないのではないかという心配がつきまとっていました。しかし勉強方法を教え自分で勉強させる方が教える勉強よりはるかに成績が上がると思い自立学習を始めました。

 

自立学習をさらに発展させたところ、自立学習の先に柔道や華道のような道に繋がる「学道」があるという事に気づきました。学道を進めればどんな高い山でも自分の足で登る事ができます。

若い人達は学道を極め日本に頭脳として活躍して欲しいと思います。

 

説明画像 やる気の源泉が脳の快と不快が大きく関わっていることを発見した。
説明画像 学道:自立学習の行き着く先に学道があることに気づきました。